【出典は古今著聞集】五月病も考え方によっては【能は歌詠み】〜歴オタの自学自習〜
2014年05月02日
本日の担当:タカラ
こんにちは。アルファテックの歴オタ、タカラです。
本日も弊社スタッフブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
さて、4月にこのブログ欄で、雪うさぎ氏が「春といえば、桜と出逢い」と
お話させていただきました。
それを受けて、本日私めは、自分が「初夏」で思い浮かぶことを
徒然なるままに書かせていただこうと思います。
お時間許す限りお付き合いいただければ幸いでございます。
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初夏、と聞いて思い出す歌が2首ございます。
一つは百人一首にも採られた持統天皇御製の
『春過ぎて夏きたるらし 白妙の衣ほしたり 天の香具山』。
もう一首は古今著聞集におさめられている
『青柳の緑の糸を繰りおきて 夏へて秋ぞ はたをり(機織り)は鳴く』。
私が初めてこれを目にしたのは北村薫の『夜の蝉』という小説の中でした。
「はたおり、っていうのは今のきりぎりすだったかと思います。
それが鳴いているのを《歌に読め》といわれたある人が、
まず《青柳の――》といい出した」
「ほう」
「《柳》は春のものですから皆ながおかしいと笑ったら、結局
《青柳の緑の糸を繰りおきて夏経て秋ぞはたおりは鳴く》となった」
(中略)
「とどのつまり、はた織りにひっかけて
《柳の枝の糸を手繰り寄せるように夏から今は秋となって
きりぎりすが鳴いている》 と、きちんとまとめたわけです」
(引用元: 「六月の花嫁」 北村薫『夜の蝉』収録)
上記は作中で主人公が歌の説明をする部分です。
(主人公と円紫師匠のやり取りは、是非ご覧ください)
(多分、日本語ってすごいなぁと思われるかと存じます)
説明を聞いて春からはたおりまでのまとめ方に「おぉ!」と驚き、
文字からわくイメージの美しさにうっとりする
一首で二度おいしい(?)歌です。
三十一文字の中に、
初夏 ― 夏 ― 秋
青柳 ― はたをり (植物と虫)
緑 ― 鳴き声 (視覚と聴覚)
…歌の読み手が言葉の機織りだわ、と、思わずため息がこぼれます。
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ところで、機を織るのに必要な たて糸は『経』、よこ糸は『緯』。
二つ合わせて「経緯」となります。
推理小説などで「この事件が起きた経緯を話してほしい」という台詞が出てくるとき、
いつ何が起きて、次に何が起きて、朝起きて見たら事件が発覚した …という風に
いくつかの事象、いくつかの見方から組み立てた筋道を指しますね。
元がたて糸・よこ糸から生まれた言葉だと知ると「なるほど」と思わずうなずいてしまいます。
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さて。
初夏ともなると、日差しも強くなり、虫は活発に動き始め、
植物は新緑と落ち着いた緑のモザイクを呈し、
春よりもより鮮やかさの増した花が並びます。
(私見ですが、春の花は彩り、夏の花は鮮やかさだと思います。)
新入生や新入社員は新しい環境に少し慣れて
道にも迷わずまっすぐに行く来しています。
(あ、帰り道はちょっと寄り道をしているかもしれません。)
色んなものがそれぞれ糸になり、それぞれの場所でたて糸・よこ糸になる。
そこで織りなすものが、各人の「人生」だったり職場の「文化」だったり。
人生は個人の、文化はコミュニティの、時間と事象を孕んだ『物語』。
初夏はいつも私に『物語』の始まりを意識させます。
春の激動(入学、入社、異動)の後で疲れが出たり思うように力が発揮できず
五月病になる方もいる季節に、始まりを意識する私は、マイノリティかもしれません。
しかし、思うのです。
羊毛や綿をそのまま機織りには使わず、糸にしてはじめて織りに使えるように
春を経たからこそ、今から物語が紡げるのだと。
五月病かなと思ったら、それは今から美しい織物になる合図だと思うのです。
決して無理はいけませんが、五月病になるほど春にがんばった貴方はすばらしい、
これから又よろしくね、と新入社員さんに声をかけたい季節です。
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※注:
『あおやぎの…』の下句が、「夏へて秋は はたおりぞ鳴く」となっている本も
見かけましたが、ここでは北村薫作品に統一いたしました。
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【参考URL一覧】
[『春ですね~~。』|弊社スタッフブログより]
http://alphatec-co.com/blog/2014/04/post-173.html
[北村薫 『夜の蝉』|東京創元社]
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488413026
[糸車|Wikipedia]
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%B8%E8%BB%8A
糸を紡ぐ道具です。
[五月病|Wikipedia]
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E6%9C%88%E7%97%85
機織りに興味を持ったら、是非こちらもご覧ください。
[梨木香歩 『からくりからくさ』|新潮社]
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